古代アンデス芸術では、衣装や貴金属の装身具を身につけた戦士が表現されている。
これは、戦闘が儀礼的な要素を持っていたことを示している。
-現代において、戦争は政治・経済的理由や領土問題が原因となって発生する。
また、金や銀の鎧や宝石、冠を身につけて戦争に赴くことはありえず、軍服は兵士を防護し強化することにある。
-しかし、先スペイン期において、戦士とは戦闘に備えた人々であり、豪華な衣装と装身具に身を包んで出陣した。衣装や装身具の中には、機動性や速度、攻撃性等の面を考慮した場合、機能的とはいい難いものもある。これらの装身具は宗教的・階級的なシンボルであり、戦闘の持つ儀礼的機能を表していた。
-先スペイン期の社会において最も重要な儀礼は農耕暦に関わるものだった。
儀礼は季節の変わり目に執り行われて雨季の開始や終わりを告げたほか、豊作をもたらす儀礼、天上の星々の出現を祝う儀礼等が存在した。
時の流れを計ること、また星々の棲む天の世界と雨の恵みを受け植物が育つ地上世界を結びつけることは、農業社会において非常に重要であった。
-戦士たちは、神話における神々を模して戦いを繰り広げた。
大地や海で戦う神々をはじめ、夜を滅ぼし昼を復活させる為に戦う神、雨によって天界と地界を結びつける為に戦う神もいた。
これらの戦いは全て、生贄の血を最高神に捧げることで終焉した。
社会の未来と引き換えに、最高の供物が捧げられたのである。
-アンデス地域における気候サイクルは、必ずしも一定していない。
大地の威力は時に地震等の災害となって牙を向く。雨季が始まらないこともあれば、反対にエル・ニーニョ現象によって雨が長期間降りやまない場合もある。
従って、自然の秩序を回復する為の儀礼の戦いや生贄もしばしば執り行われた。
古代アンデスにおける主な儀式は音楽や舞踊を伴うものだった。
音楽・舞踊等の芸術表現は、儀礼の実施に適した状態を作り出した。
-音楽は、現代において祭りや集会、身内の集まり、宗教行事等の一部を形成している。
音楽は我々の意識に刺激を与え、精神的体験に適した状態へと導く。また、音楽によって感動や感情、願い、個人的或いは社会的思想を表現することができる。
音楽は、あらゆる文化において人類と非物質的世界とを結ぶ手段であった。
-舞踊も言葉を使わない伝達手段であり、多くの動物が踊ることを考慮すれば、その歴史は文化に先立つものであると言える。
人類は、遥か古代より身体の動きを基に振り付けを創造し、舞踊は歴史や喜び、悲しみや喪失、感謝の念等を表現してきた。
-音楽や舞踊は、常にアンデス社会に存在していた。
水崇拝や宗教行列、聖地巡礼、儀礼の戦い、埋葬、生贄等は音楽や舞踊を伴うものだった。
-古代アンデス文化は、自然のもたらす様々な素材から打楽器や管楽器を生み出した。
太鼓やガラガラ、笛、ケーナ、アンタラ、ラッパ等が製作され、儀礼におけるリズムを刻み、旋律を奏でた。
この他、風や水の動きを利用して音を奏でる陶製の器等も使用された。
-儀礼の衣装の多くは、金属片や鈴等の装飾が吊り下げられ、これらが触れ合うことで音を奏でた。このような衣装や装飾を身に着けた人物は、超自然的な存在とされ、神の世界に関わる者と考えられた。